子どものために働かせてください

張りぼての「日本一」なんて、いらない

 

 コロナ感染拡大の中、日々生活に不安を抱え過ごされていることと思います。学校が突然の休校となり、子どもたちの健康や安全をどう守るか、子どもたちの学びをどう保障していくのか、大きな不安を抱えていることと思います。

 突然の休校発表、その翌日が最後の日。なぜこんな急に。けれど、せめてその1日に思いを込めたい。朝の短い時間でどの学校も必死に考えました。ある校長先生は、「もう、しばらくはみんなで遊ぶ事はできないから、どのクラスも、校庭で遊ぶ時間をとろう」と言いました。下校までの短い時間に、どうやったらこれまでの子どもたちのがんばりを讃えられるだろう。卒業式に向けて一生懸命練習した伴奏。朝会で渡すはずだった賞状。最後の参観で見せるはずだった発表。準備を重ねた6年生の感謝の会は保護者に見せられない分、急いでビデオに収めました。必死に知恵を出し合いました。せめて、せめて…と。

 もう再開しないかも知れない。みんなで卒業を祝いたいと教室で伝えた言葉、泣いてしまって歌えなかった卒業式の歌。初めて中3を担任した先生に子どもたちの巣立ちを見届けさせたいと奮闘した学年主任。4月から異動することが分かっているのに、満足にさよならもありがとうも伝えられない悔しさ。子どもたち同様に、私たちもいろいろな思いが交錯した1日でした。

 今後の見通しが立たない3月。年度末の実務を行いながら、いつ学校が再開してもいいように子どもたちの顔を思い浮かべながら、様々な準備をしていました。しかし、私たちが得る情報は、土壇場で流されるテレビ・ネットのニュースか、保護者あての一斉メールからだけでした。

 卒業式のやり方、終業式の分散登校やクラスを二つに分けて行う方法、入学式・始業式の実施予告とその中止など、次々と流れるニュースに驚き、練り直し、会場を整え、そしてまた覆(くつがえ)される…。支援学級が学年ごとに輪切りにされ友達に会えない、小規模校では登下校の安全も守れない、最後の限られた時間でさえクラスのみんなで分かち合えない。なぜ、職場をもっと信頼してくれないのか。大切な卒業式や入学式でさえも、子どもや保護者の方の気持ちや安全を考えるよりも、流されてしまったニュースやメールの後を追い、辻褄を合わせることに奔走する。こんなことはおかしい。

 私たちが今一番悔しいのは、こうした不毛な時間に追われ、肝心な子どもたちのためになる仕事ができなかったということです。近しい方からも学校への不信の声が聞こえており、学校現場に身を置くものとして、その責任を痛感しています。

 この休校延長と感染拡大のさなか、さいたま市では4月10日午後に市内小中学校の校長・情報主任など300人近く(2回に分けられ150人ほどずつ)が集められ、教育長から「どこよりも早く」と、You Tube用の動画を作ることが指示されました。小中学校の全教科全単元が全ての学校が機械的に割り振られて、5月7日を目安に、15分動画を作れというのです。感染防止の観点もあったようですが、私語を禁じ、質問を一切受け付けないという異例の形で行われたそうです。

 またもや、さいたま市の学校は混乱しています。

 「支援学級の子どもたちは教師を信じてくれている。その教師が“You Tubeで勉強”と言えば、それが良いことだと信じてしまう。自分が子どもたちをSNSの危険にさらしてしまう」

 「You Tubeを見られない児童、見せない方針の保護者もいる。支援の仕方が偏っている」

 「素人が質の低い動画を作るより、目の前の子どものことを考えて、休校中や授業再開に向けて準備をしたい」。

 You Tubeは、誰でも知っている通り、長時間見続けてしまったり、適切でない内容に触れたりする危険もあります。学習を伝える手段として、子どもに良いものとは思えません。また、著作権などの制約も多く、教科書に載っている文章や分かりやすい図、写真なども使えません。画面に映った場合、心ない批判や中傷にさらされる心配もあり、教員も姿や声を出すことに悩んでいます。

 また、同じ日には、ラジオ「さいたま市の10万人の子どもたちへ 先生からのラジオレター」に参加するよう指示もあり、録音日時まですでに指定されていました。子どもたちに何かしたい、という思いを持ちながらも、その一方的なやり方に大きな戸惑いを感じています。その他、校庭開放や全家庭への電話かけなどが次々と取材され、報道されていきます。私たちが知らないうちに。さも「さいたま市」が素晴らしいように。

 これらのことを考えると、「日本一のさいたま市」を繰り返す教育長、教育行政の歪みが透けて見えるようです。

 必要なことは、「どこよりも早く」目立つ形をアピールすることではありません。それぞれの学校が知恵を出し合い、目の前の子どもたち全員に学習支援をどうするかを考え、命と健康をどう守っていくかを学んでいくことだと思っています。児童の一時預かりの対応や児童への電話かけ、各家庭のインターネット環境の掌握など次々と指示がなされる中で、私たちはこれから教える学年の教科書さえ読み込む時間がありません。今後の授業で一番大切なことなのに。

 今、市内の教員はトップダウンの政策に振り回され、子どもたちに還元できないことに労力を費やしています。

子どものためになることを考える時間と自由を、どうか私たちにください。

 さいたま市は、そこで働く者の言葉は届かなくとも、世間の声にはいち早く敏感に行動を示します。

コロナ感染が心配される中で入学式が中止となったのは、そうした世論に後押しされたものだと感じています。 

 私たちも手を尽くして子どもたちのために頑張ります。仲間と共に、集められる声を集めてさいたま市教育行政に強く要望していきます。

 ぜひ、皆様のご意見を、さいたま市教育行政にあげてください。

 どうか皆様の思いを、広く周りの方へ伝えてください。

2020.4.15

さいたま市小学校教諭

 

「さいたま市学習支援コンテンツ saitama citypr」
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