2022年10月 8日

新英研 神奈川・東京・埼玉・合同例会

秋のアフタヌーン ミーティング

学力の基本・読み書きの充実をはかる ~新教科書を乗り越える~

 

「国語科における『読み書き学習の現状』」

   府川源一郎さん (横浜国立大学名誉教授)

 

①戦前の「読むこと」の教育は国定読本に書かれた内容を理解することが中心で「没主体的」「百科辞書的な内容」「文語文の読み書きを目指す」ものであった。

②戦後経験主義教育の一時期(1945-1958)は、「社会とつながる言語経験を豊富に」(米国の経験主義の影響で)「教材は一つの資料である」という位置づけであった(府川さんの見解は図書館が充実していない、教科書をそろえるのが精一杯という状況のため、当時は十分に根づかなかったと、考えているが、今また影響を与えている)。

③1960年代以降は「読解学習」の時代(指導過程研究の時代)。ある意味、①の戦前回帰。作者の言いたいこと(主題)を取り出して受容し、真理に到達することが重要。価値ある作品(聖典)には真理があり、主題に達するために科学的な手続きを取るという理論もあった。喩えるなら、アメリカの自動車を分解してさらに良いものを作っていく時代。

④1970-1980年代以降「(実体としての)作者の意図」が問われ始めた。『作者の死』(ロラン・バルト)が言われるようになった。テキストを「読むことは還元不可能な複数性をもつ」(=ひとつの解釈があり、それを見つけるということではない=正解到達主義への批判)。入学試験の問題と切り離せないが、子どもたちのより豊かな感情・感情・認識をどうやって引き出すかにかかわってくる(※大切な観点)。ゆとり教育の頃「指導ではなく支援」が合言葉になった。喩えるなら、アメリカの車を模倣する時代は終わったからアイディア勝負という考え(府川さんはゆとり教育を大切だと考えている)。

⑤PISAショック以降は、問題解決能力育成のための「読むこと」の教育の時代。(文学を味わうというよりも)多くの情報を主体的に処理するための方法・技術の獲得を目指している。情報を取るために「目次や索引から読む」vs.「1ページ目から読んでいく」。教材が深く豊かに読めているかがこれからの問題。

●戦後は多様な教科書があったが、近年、国語教科書会社数が減った(今は4社)。共通教材があり、似たような内容になってしまった。「スイミー」「お手紙」「大造じいさんとガン」「モチモチの木」、3社で「一つの花」「白いぼうし」。かつては「ごんぎつね」のみ。読みの技法(対比・視点などニュークリティシズムの用語)がコラムに登場。

●豊かに読む生活を拡充したい!:読書活動の二極化(ほとんど書物を読まない大学生、国語科の学習が日常の読書活動とつながっていない)。マルチモーダルリテラシー研究の展開と教育への応用。

府川さんが危惧されているのは「道徳の教科化によって徳目を読み取ることが目的になっていく」こと。

 

質疑応答:

Q:古典についてどう考えるか?

A:外国語教育と同じで精神生活を豊かにしてくれる。原文で読まないにしても大切である。

Q:ローマ字教育について。教科書調査官レベルで、頑として国語科が手放さない。

A:詳しくは承知していないが、お役人が手放さないというのは理解できる、困ったものです。国語科と英語科の乗り入れは出来る。いっしょに考えていきたいと思う。

 

感想:日本の国語教育の歴史を振り返りながら、現在の状況をわかりやすく教えていただきました。正解は一つという矮小化された読み方ではなく、「豊かな」読み方を生徒たちができるような支援を国語科でも英語科でもしていきたいものです。府川さんが危惧されている「道徳の教科化によって徳目を読み取ることが目的になっていく」ことを注視していきたいと思います。

 ※個人的には、又吉直樹さんのYouTubeチャンネル「渦」で展開されている「深読み」が参考になるかと思っています。

参考:ロマンチックすぎる解釈 文章の世界でだけは万博先生は自由なのです【#12 インスタントフィクション】 

https://www.youtube.com/watch?v=CC37Ofku-IM&list=PL5wu9XY_klujDIfcWbUqnEWdwbQgu2fgu&index=12

 

「2年目に入った中学英語教科書〜

 1年生の大混乱、どう絞る?どうつなぐ?」

   柏村みね子さん・福島悦子さん

 

柏村:とにかく難しいと全国から声が上がっている。週4時間であり、英語の授業を週20時間以上持つ教師が多い。語彙の増加(旧教科書で1,200語→新教科書小学校で習った語彙[書けるまでは求められない]を含めて2,200~2,500語)。文法事項の高度化、増加(高校から現在完了進行形、仮定法、SVC、SVOO[that節]、原形不定詞などが中学へ)。英文量の高度化、増加。生徒にしわ寄せが来る。たくさんの語彙を覚えられなければ、まるで生徒の自己責任かのようであり、教師にも負担になっている。加えて、「暗記ではなく、その場で話す」即興性が求められている教科書(Here We Go)だが、これはもう5ラウンドシステムの5回目を想定しているのか。生活リズムと学習事項がリンクしていない。(以前は職業体験のスピーチを、不定詞を習った後に行ったが、現行では不定詞は進路学習よりずっと前に出る)。 全国から「教員人生において最大の危機」と。“I am ...” “I like...” が同時に出る。早期にあきらめる子が増えた。英語が苦手・嫌いの生徒が増えている。東京では入試にスピーキングテストが入るとの説明に1年生から“I don’t like English.”という生徒の声が出ている。

小学校現場から見ると、単語や文の定着までは触れていない。気づきを大切にしながら、ことばとしての学び、関心を強調している。このギャップをどうつなぐのか。スタート時の二極化から「みんなで学ぶ」へ。次の5点を提案する。①進んでいる子も、学び方を学び、継続した学習ができるように。 ②「慣れる、親しむ、楽しむ」→「わかる、納得、楽しい」へ ③五感を活かした、実感のある学びを入れて ④単語、文法をより明示的に、整理して ⑤仲間とつながる、社会を学ぶ、世界の仲間へ

(各教科書ユーザーからの声 省略)New Crownの場合、出る順序をよく見ておく必要がある。StarterとL1をどう乗り越えるかが肝要だ。

 

福島:昨年中3を教えた。3年が一番大変だと思っていたが、今年1年生はもっと大変。授業開きはコミュニケーション活動を早くからさせて楽しくできたが…。語彙の多さは各ページこれでもかというほど。大文字はほとんど全員が書けるようになっていた。小文字を最初から確認して覚えさせた。マスターできていなかった。今までの教科書は、最初I am... You are... だけだったが、L1からbe動詞と一般動詞が同時に出てくるのが衝撃的だ。まずはbe動詞に習熟させる。混じらないように疑問文、応答文、否定文(定着しにくい)を徹底的にし、is否定文も。次に一般動詞とbe動詞の区別がついたところで教科書本文に入る。新教科書は既に23個の単語がL1のPart1で出てくる。中間テストに向けて単語を書く練習をかなりさせるが、4人グループで9セットの単語カード大きいのを配り、協同学習させた。今まで「英語が楽しい」と言われたことはお楽しみの部分に対してであったのだが、小学校で何をやっているかよくわからなかったのに対し、「整理してまとめてくれ、分かるのが楽しい」という発言を初めて聞いて、うれしい。

 

柏村:分かるということが子どものやる気を伸ばす。Starter、L1は飛ばして、まず独自教材を行う。飛び飛びで出てくるものをまとめて教師の裁量で教えることが必要だ。

 

福島:最初から複数形、単数形が出てくる。入る前に、単複の概念を教えてから教科書に入る方がいい。

 

柏村:夏休み以後、生徒同士で、あるいはリアルな国際交流など、つながる活動は3,4年前と比べてどういう状況か?

福島:4年前に1年生を持った時はペアの発表活動をさせたが、現行版はALTの先生が一人がしゃべっている場面が多く、対話のページもあるが、以前より、ペア活動がやりにくいと感じる面もある。知識技能の定着で精一杯で、クリエイティヴな活動までに至っていない。今回のNCの作りは、Key Sentenceが、本文以外のところに出てくる。今回、開発教育教材の写真を使って“How many~s  ?”を学習した。目的格が出るL3は代名詞のレッスンとして扱っていかないとだめ。今「3単現のS」に入っている。

 

柏村:新教科書によって、また来るスピーキングテストの導入によって授業が揺り動かされる経験を話していただいた。この秋に取り組みとして表現活動をすることが必要になるが、なぜこんなに難しい教科書になってしまったかと考えると、「グローバル人材の水準を上げる(文科省)」に各教科書が焦点を合わせているためだろう。「すべての生徒に英語を学ぶ喜びを保障する」を、中学校の英語教育の目標としたい。難しすぎる教科書の問題を解決するために、今日からできることを提案する。同僚と話す、ML、新聞に投稿、定期的に実践を書いてみる。教科書会社に声を届ける、など世論を作っていきましょう。そして秋に各地で研究会を開いていきましょう。

 

この後「読み書きの力をどうつける 具体的な手立て・アイディア交流」のブレイクアウトルームセッションを3~4人で行った。 

 

全体交流

○教科書の実践についての授業をうけているところ。工夫性に課題がある。注意すべきことはないか教えてほしい。

○楽しい授業をしたいと皆さん言う。アクティビティをやりたい。自分の受けた授業の反動で、楽しくないといけないと思っている。

○基本的に自分は型にこだわる。文法は、教材は 教科書を批判的に扱うことはできていない。型を教えることは大事だと思う。予測力も大切。教育実習に行ったとき、先生の授業を見ていて、生徒がどう動く、反応するかを学んでくる。

○大学などで英語を教えている。これだけ大人が英語を喋れないことは… 中学で品詞を教えられていないことに問題がある。ビジネス英語で大切なことはロジックを教えること。実用なだけでなく。

○石井『誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋,2022)ごんぎつねの一節で母親の死。熱湯が沸いている鍋に「何が入っているでしょう?」という教師の問いへの子どもの反応に、愕然とした。

○府川『ごんぎつねをめぐる謎』(教育出版, 2000)という著書がある。「はそれ」(なべ)で、ぐつぐつ煮てる場面。葬式で屋外で煮炊きをするということを子どもは知らないので、想起しにくい。社会的背景・文脈に規定される。子どもの反応を国語力の欠如ととらえるのは問題だ。

○デジタル教科書をどうとらえるべきか。以前から、小学校英語に反対だった。早めの脱落。教科書会社に声をあげていく。学習障害の子どもたちをどう指導するか。言語教育EXPOでとりあげる。